- 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH:エルオーエイチ)
加齢やストレスによる影響で男性ホルモンが相対的・絶対的に低下することにより、40代以降の男性に起こる身体症状、精神症状、性機能症状をまとめて加齢男性性腺機能低下症候群(LOH)と呼びます。テストステロンの低下は、メタボリックシンドロームや筋力低下・骨密度低下などにも影響しており、補充療法がそれらの改善にも有効であることが分かってきています。昨年、ガイドラインの最新版が発刊され、アジア人はテストステロンの感受性が低いため、テストステロンの値だけでなく症状によってテストステロンの補充をすべきとの見解にかわりました。
知ること、治療することで、活力のある生活をとり戻せる可能性があります。
- 主な症状について
◆性機能症状
性欲低下、勃起障害、早朝勃起(朝勃ち)回数の低下など
◆精神症状
落胆、うつ、いらだち、不安、神経過敏、記憶力/集中力低下、倦怠感/疲労感など
◆身体症状
関節症状、筋力低下、発汗、ほてり、睡眠障害、骨塩量低下、体脂肪増加など
- 診断に至るまでの検査について
LOH以外の疾患を見逃さないように、当院では、以下の検査計画を実施しています。特に、テストステロン補充療法により稀ではありますが、前立腺肥大症に伴う排尿障害や潜在的な前立腺癌の悪化について指摘されており、治療前の精査は重要です。
◆問診・質問票による症状スコアの測定
目的:男性の加齢性変化の客観的評価ならびに、うつ病の鑑別を目的に行います。
◆血液検査(肝・腎機能、糖・コレステロール代謝、テストステロン、PSAなどの測定)
目的:LOHの診断とホルモン治療が可能かどうかの判断目的に実施します。
*)男性ホルモンは日内変動があるため、午前中(11時まで)に採血します。
◆超音波検査・尿流量測定検査
目的:テストステロン治療を希望される方に対して前立腺疾患や排尿障害の鑑別目的に実施します。
他疾患が疑われる場合には、検査治療について他院へご紹介することがあります。
- テストステロン補充療法
検査結果や症状に対して、総合的に判断し治療を行います。治療計画の一例として、テストステロンの筋肉注射を開始し、2-4週間ごとに経過を見ます。3カ月を目安に治療の継続について判断し、副作用や症状の改善に応じてテストステロンの減量・中止やゲル剤への変更を検討します。副作用として多血症や肝機能障害などがありうるため、治療を継続される方は定期的に血液検査等が必要になります。
- テストステロン補充療法により起こりうる副作用
・心血管系疾患:発症に直接の関与はないとされていますが、当院では、発症後半年以内の方は治療適応外としています。
・脂質代謝異常:善玉コレステロール(HDL-C)が低下するという報告もありますが、低下しないという報告もあります。むしろメタボリック症候群の改善につながるという報告もあるため、コレステロール値で適応の可否は判断しないことがほとんどです。
・多血症:治療した方の24%に認める最も多い副作用です。そのため、治療開始後は2-4週間後に血液検査が必須であり、以降は状況により間隔をあけて血液検査を継続する必要があります。
・肝毒性:テストステロン補充療法との関連性は低いとされています。
・睡眠時無呼吸症候群:重度の場合には投与できません。治療されている方の場合にはその限りではありません。
・精巣萎縮・男性不妊:挙児希望がある方には投与は行っておりません。
- よくある質問事項
Q)治療による前立腺がんの発症リスクはありませんか?
A)前立腺がんがない方にテストステロンを補充しても、その発症リスクは上昇しないことが大規模な臨床研究の結果として報告されています。しかし、前立腺がんが潜在し、悪化する可能性があるため、治療中は定期的にPSA(前立腺がんマーカー)の測定が必要です。
Q)テストステロン補充療法の適応とならない場合はありますか?
A)前立腺癌、乳がん、多血症、重度の肝・腎機能障害、うっ血性心不全、重度の高血圧、未治療の睡眠時無呼吸症候群、挙児希望がある場合には、原則、治療の適応ではありません。また、心血管系の疾患との関連性は低いとされていますが、現時点では、発症後最低半年以上は治療が推奨されていません。その他、ご本人様の年齢や既往、全身状態を総合的に評価した上で、治療の適応について判断します。